この恋は、風邪みたいなものでして。


五つ星クラシックホテル『シャングリラ』は、私みたいな教養もない若者には到底入ってはいけない様な威圧感を感じる。
大人の隠れ家、大人の遊び場と銘打ったホテル『オーベルジュ』の方が利用客が若いせいもあって、正装されたご年配達は来ない。
なので、今、仕事中でもないのに何か失礼をしないかびくびくとしてしまう。

や、こっちのホテルは自分には直接的には関係ないのに職業柄なのかな。

それに正装じゃなくても少しは可愛い服装をするべきだった。
一応、仕事の後に颯真さんと会うからってお気に入りのワンピースを着ていたけど明らかに場違いだ。
ちらりと見上げた颯真さんは、不機嫌そうな顔だったけど、服装も雰囲気もこのホテルに居て違和感なんて感じさせない。

「怯えすぎ。小さい頃、此処に来たことあるでしょ?」
「ぴ、ピアノの発表会に一度だけです。もうほとんど」
「覚えてないよね」
切り捨てられるようにそう言われ、思わず顔を上げる。
すると、今まで見たことないような冷たい目で颯真さんが私を見下ろしている。

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