この恋は、風邪みたいなものでして。
「5歳だったから覚えていないのは仕方ないよ。17年経っていれば尚更。でも俺は忘れていなかったと言うだけの話」
「え、えええー?」
ちょっとだけ不機嫌になった颯真さんの態度が分らない。
「なんで幼馴染と会ってたか、聞いた方が良い?」
「えっと」
エレベーターを待つ間、ピアノの発表会の話から逸れてその話しへ変わってしまった。
でも、病院に入って来てから、今までずっと颯真さんからピリピリした空気を感じていた。
それがきっと、柾のことなんだと分るとちょっとだけ安心してしまった。
「柾の前では、もう婚約者のふりなんてしなくて良いんです」
足元を見る。
足ぐらいは私もネイルすれば良かったのかな。
そんなどうでも良い考えがふっと浮かんでくるぐらい自分の気持ちに整理が付かないまま、言ってしまった。
「何故?」
「バレバレなんです。私、きっと嘘が下手くそなんですね。幸せそうな顔が出来ないの。――きっと幸せじゃないんだ」
「幸せじゃない、ね」
「颯真さんの隣に居られるだけで嬉しい筈なのに、風邪を引いたせいですかね」