この恋は、風邪みたいなものでして。
「颯真さん、あのですね」
「うん」
「茜さんは、私が婚約者じゃないと見抜いていました」
「……茜に会ったの? いつ?」
颯真さんは無難にマティーニを作って貰い、それをカウンターの上で揺らしていたけど、茜さんの名前に眉をしかめた。
「今日です。その……部屋に行ったんですよね?」
「来てないよ」
「でも、バスルームに置き忘れたサングラスケースとか、ルームサービスの二人前とか!」
「ああ。それでか」
一気にマティーニを飲み干すと、また同じモノを頼みながら颯真さんは笑う。
「担当さんに渡すように頼んでおいたんだ。担当と茜は仲が良いからね。どうせお昼は二人でホテルのカフェでランチでも食べたんだろう」
「そう言えば、茜さん、カフェのある階で乗ってきました」
「でしょ? 茜のことでヤキモチ妬いたわけではないんだよね?」
「違います。私、――私、ヤス君のことで颯真さんに嘘をついたことがあって」