この恋は、風邪みたいなものでして。
「嘘、ね。別に俺はわかばがどんな嘘を言おうが気にしないけど?」
「それって、興味が無いから、ですか?」
店長のことさえ守れたら良いって事?
それとも。
「颯真さんも嘘をついているから、ですか?」
お代わりのマティーニが置かれたと同時に、颯真さんも目が私の言葉で見開かれる。
隠す事も出来ないぐらい、颯真さんが動揺している。
「颯真さんは、本当は――小説家なんですか? 調律師さんなんですか?」
私の言葉に、ぷっとバーテンダーが笑ったかと思うと、笑いを堪える為にちょっと奥へ行ってしまった。
そんなに私の言葉が変だったのだろうか。
「調律師は、今はやってないよ。小説家はこれからも続けていく。これは嘘じゃない」
「じゃあ、小説家さんなんですね?」
私の問いに、颯真さんは難しい顔をする。
「君が思い出してないのに、真実は言いたくない」
「真実」
「恋愛小説家は、今は副業で本業は別ってこと」
やっぱり。
店長が言ってたことは本当だったんだ。
経営ッて言ってたから、何か本業は大きな仕事なのかもしれない。
「気になるなら、――思い出して。さっさと俺を思い出してよ」