この恋は、風邪みたいなものでして。



「思い出す?」
「俺の事、こんなにずっと一緒に居るのに思い出せないの?」

焦れた様な、悔しそうな顔で、顔が近づく。
でも私はこんな格好良い顔の人なんて、今まで一度も出会えたことがない。
と、思う。

でも、確かに頭を撫でられた時、何か込み上げてくる既視感はあった。

さっき柾に頭をポンポンされた時には無かった思いが、――確かに心のどこかであったんだ。


「君が思い出せば、君の嘘なんてきっと大したことでもないし俺も気にしない」
「あの、思い出したら――どうなるんですか?」
焦って変な質問をしてしまった。
そう思ってももう遅い。

颯真さんは、傷付いた顔を精一杯隠して笑ってくれた。
それは、胸が痛いだけの、取り繕った笑顔だ。

「ハッピーエンドしかないだろ?」

「わ、私……」
なんでこんな素敵な人を覚えていないんだろうって自分を恥じた。
この少ない脳みそを、シェーカーでシェイクして貰った方が良いんではないかと本気でそう思う。

こんな、そんな顔を颯真さんにさせたいわけではない。
「覚えてなくちゃ駄目ですか? 私、颯真さんの事が好きなんですっ」

迷惑でしかないと分っていても、覚えていない事で傷付いてる颯真さんを見ていたくなかった。

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