この恋は、風邪みたいなものでして。
うん、そうだ、俺が悪い。
颯真さんは何度も何度も自分に言い聞かせるように呟くと口を拳で隠した。
「明日の朝まで、時間をくれない?」
トントンとカウンターを指先で叩くと、彼はそのままカウンターに突っ伏して、私を見上げる。
その甘えた様な縋る瞳に、私の体温も心臓も跳ねあがる。
変な汗が出てきた。
「君が思い出せなくても、思い出しても、俺は君が好きな事に変わりない」
「すっ」
「でも明日の朝、最後に一回だけチャンスを欲しい」
「チャンスって」
「君が思い出す魔法をかけさせて」
囁くような弱々しい声は、甘い旋律の様に私の耳に入ってくる。
勿論構わない。
もしかしたら風邪を引いたせいで心が大事な事を考えられなくなっているのかもしれない。
だから、――だから。
私も覚悟を決めて、頷く。