この恋は、風邪みたいなものでして。
エレベーターのボタンを押しながら、苦々しく言うと頭を抱えている。
「わかばを送れない」
私は別に送って貰わなくても、まだ最終電車は残っているし、ホテルから駅までは明るいし問題はない。
「……それにまで気が回らないぐらい、焦って浮かれて、落ちつきが無かったんだろうね、俺は」
「……」
でも、確かに今日の颯真さんはちょっとだけいつもと違っていた。
上着を忘れて会いに来てくれたし、柾の事で怒ってくれたし。
いつも優しい笑顔にときめくんだけど、でも今日は、ピリピリした空気の中で見せるセクシーな横顔とか、真摯な顔とか、全てドキドキした。
「わかば」
「はい」
「上がってくるエレベーターに、誰も乗っていなかったら、君の初めてを貰う」
「は、初めて!?」
「恋愛経験が無いみたいだから、経験しとこっか」