この恋は、風邪みたいなものでして。

逃げられないように、手を掴まれる。

お酒を飲んだ私も颯真さんも、ほんのりと暖かい。

階数を示す光が、どんどん上がってくる。
18階の此処まで、一階も止まっていない。
上の階に行く方か、此処で降りる方がいてくれたら――。

そんな望みを持ちながらも、少しだけ期待もしてしまう。

颯真さんになら初めてを奪われて良い。
「あのね、一つだけおさらいしとくよ」
先生みたいな口調で颯真さんは階数のボタンを見ながら言う。
「店長は婚約者じゃない。ヤス君が猫でも人間でも関係ない。君は俺が好き。――此処までは分るよね?」
「はい」
私も観念したように頷く。色々と私の勘違いや早とちりだったのだと彼は言っていた。

「で。俺も君がずっと好きだった。だから、今からすることは、両思いの恋人の印ってことだから」

18階にエレベーターが到着する。

中には、誰も乗っていなかった。

彼にエスコートされるように中に入ると、そのまま壁まで追い詰められて、彼が一階のボタンを背を向けて押す。


ゆっくり締まって行く扉と同じ速度で彼の顔が近づいてくる。

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