この恋は、風邪みたいなものでして。
そのまま、少し顔を横に傾げて、彼から唇を重ねた。
壁に縫われた私の両手を、優しく、でも力強く握り締めたまま、彼の唇が重なる。
「んっ」
緊張し過ぎてい気が出来ない私は、その行為自体が初めてで、次はどうなるんだろうとプチパニックだった。
震える私の指先を、彼の親指が優しく宥める。
そしてふっと目元を笑わせて、唇が離れた。
「あのね、息は鼻でしなさい?」
「――!」
ブンブン頷く。
駄目―。
顔が近い。
甘い、笑顔。
柑橘系の爽やかな彼の香水。
匂いも、その笑顔も、離してくれないその強引な手も、全て好き。
もう一度唇を重ねながら、それでも鼻息が荒いと思われたくなくてギリギリまで息を我慢した。
すると、ポーンとエレベーターが鳴って扉が開いた。
音から扉が開くまでの数秒で、彼は私からすぐに離れた。
「とれたよ、目の中のゴミ」