この恋は、風邪みたいなものでして。


入ってきた女性からは背を向けて、そんな嘘を咄嗟につきながら離れる彼は悪びれもしない。

そんな、誤魔化すのが手慣れている彼は、確かに少しずるくて経験も私よりあるのかもしれない。

私は両手で口を押さえながら、嬉しいのやら恥ずかしいのやら、分からなくなって涙目で何度も何度も頷いた。


これは本当に、一つ経験をしたことになったのだろうか。

私の大事なファーストキス。

優しく強引に奪った彼は、乗り合わせた女性に気づかれないようにまた私の手を掴んだ。

離さないと言ってくれている様で、すごく暖かくて――嬉しい。


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