この恋は、風邪みたいなものでして。
「柾(まさき)は、私には本当にキツイし怖いし怒鳴りまくりですよ」
「し、心配してるのかなーって思っててごめんね、あのさ」
「はい?」
「さっきお昼に偶然本屋で会ったときに、華寺さんが出勤中に貧血で倒れちゃったって言っちゃった」
「えええ!?」
嫌な予感をしつつ、ロッカーのカバンからスマホを取り出す。
すると、『笹谷 柾』からメッセージが一件来ている。
恐る恐る見ると、やっぱり案の定の内容だった。
『送るから、向かいのカフェで待ってろ』
怖い。
絶対に怒ってて怒鳴られる。
そのまま早歩きで帰る柾の後を、必死で追いかけなきゃいけない。
追いかけなきゃさらに怒るし。
「ごめんね、大丈夫?」
「はい、慣れてますんで大丈夫です」
「あのさ、笹谷くんも、華寺さんを心配して強い口調になると思うから、その、あまり落ちこまないでね?」
「分かってます」
柾は、小さな頃から意地悪ばっかしてくるから正直、大の苦手。
発表会で髪の毛をくしゃくしゃにされて以来、私から遊びに誘う事もなかったんだけど、腐れ縁というか、家が隣だから顔を合わすのは避けれない。
仕方なく、穏便に接してきたんだけどなあ。
いや、柾も短気じゃなければ良い人なんだよ。多分。
「菊池さん、お疲れさまでした。私、ちょっと店長に用事がありますんで、失礼します」
「うん。明日は頑張ろうね。18時からだから、スタッフは16時にはホールだよ」