この恋は、風邪みたいなものでして。
「じゃあ、おやすみ」
颯真さんがタクシーに乗り込んだ私に、そう手を振る。
「お酒、飲んでいて正解だった」
「え」
「車で無事に送る保証が持てなかったから」
それって、つまり――。
計算してお酒を飲んだって事?
余裕が無かったって言うのは嘘?
手を振り続ける彼を見ながら、私は首を傾げる。
何処まで彼を知れたのか。
知らないのにどうしてこんなに急速に好きになっていったんだろう。
両思いだと彼は言うけれど、風邪を引いた様に恋に落ちた。
まだ風邪を引いた様に、ふわふわとした思考の中、触れた唇だけが暖かくリアルだった。