この恋は、風邪みたいなものでして。
駅から降りて、ホテルまで数分の道のりが険しいゲームのダンジョンのように思えた。
できれば、ホテルまで点々とあるコンビニで化粧を直しながら進みたいぐらいだった。
恋人――。
恋人?
キスをして、両思いで、私と颯真さんは両思いになった。
颯真さんの事はまだ何も知らない癖に。
それって、なんだかもう、どうしていいのか分らない。
嬉しいのに、ふわふわして実感を掴められない。
ホテルの裏口に着いた時には、バックを握る手から、変な汗が噴き出して湿っていたと思う。
『着いた?』
エスパーのごとく颯真さんからメッセージを受信する。
昨日の夜から何回も何回も携帯の画面を見て恋焦がれた相手からのメッセージ。
四文字なんて短すぎる。
「まだです」
私も、悔しくて素っ気なく返す。
ああ。可愛くない。
『店長と話しあってるから、オーベルジュじゃなくてシャングリラに居る。着いたらこっちにおいで』
シャングリラ?
でもどうして店長と?
疑問に思っていたら、追撃メッセージが来た。
『おいでじゃなくて、来て下さいだ。待ってます』