この恋は、風邪みたいなものでして。

そんな嬉しそうな文面と、聞こえてくる声からして、電話の向こうは柾だ。
間違いない。
私だってちょっとは経験して、推理ができるようになっている。

「うんうん。超楽しかったよ。おかげで今日は、遅番だから気を付けなきゃ」
遅番。

上がりが22時近くになってしまう場合もある。

そう言えば、遅番は柾が保護者の様に待っていてくれていた。

いつも、あのカフェで。

怒って不機嫌で、あのレストランを時間が不規則だから止めろっていっつも頭ごなしに反対するから怖くて嫌だった。

そんな、柾の気持ちも知らずにただただ怖がっていた自分が嫌になる。

「嘘! 良いって。一人で帰れるよー。うん。うん。……うん。ありがとう」
声のトーンが暖かく、しっとりと優しくなった。
嬉しいっと弾けていた声が、一瞬で恋する声になった。

それは、現在進行中で颯真さんを好きな私だからこそ理解出来た。

「じゃあ、あそこの本屋で待ってて。本屋さ、よく会ってたじゃん」

菊池さんも社員用の駐車場で立ち止まり、会話を終わらせる様子もない。

私も幸せそうな二人の会話を邪魔したくなくて見つからないように、そっと離れた。


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