この恋は、風邪みたいなものでして。
『着いたよー』
一応、そう連絡を入れたのに、返事は無かった。
朝だと言うのに、既に上品な着物を着た婦人達が何人も歩いていたり、支配人が英語でセレブな外国人にロビーのステンドグラスの絵を見上げて説明している。
恐る恐るエレベーター前でボタンを押したり、扉を支えて補助しているスタッフに声をかけてみた。
「すみません。『オーベルジュ』の『ブロン・ロネリ』の店長と御手洗さんは何処にいるか分りますでしょうか。私、『ブロン・ロネリ』のホールスタッフでして」
カバンからスタッフの身分証を出すと、女性のスタッフさんは深々とお辞儀をして下さった。
「7階のホールで話しあわれております。颯真さまより華寺様が来られると連絡を受けて要ります」
「わあ、あるがとうございますっ」
七階のボタンを押し、締まるまでずっと深々とお辞儀したままのスタッフさんに、私も締まるまで頭を下げ続けた。