この恋は、風邪みたいなものでして。


五つ星ホテルと言われるだけある。

徹底的に管理され、教育され、ホテルの内装もスタッフも、緊張するぐらい素敵だ。

私もオーベルジュの雰囲気にあったスタッフになれる様に頑張ろう。


意気込んで、『イル・ジャルディーノ』と書かれたホールをノックする。

が、返事は無かった。

もう一度ノックするが、返事は無い。
恐る恐る中へ入ると、結婚式のようなパーティーテーブルが並んでいるけれど、誰も居なかった。

ただ、――新郎新婦が座る筈の場所に、グランドピアノが置いてある。

それはうちの店にあるはずのグランドピアノだ。
17年前は真っ白だったけれど、今は日に焼けてしまいクリーム色になっている。奏でられ続けた分だけ、ピアノの鍵盤に色が染み込んでいるんだ。

でも、なんで、昨日は確かにうちのレストランにあったはずのこのピアノが此処に運ばれてきているんだろう。
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