この恋は、風邪みたいなものでして。

(あっ)

私が、思い出さないから――?


この場所で、17年前にピアノの発表会をした。

この、場所だ。
身長も伸びてしまい、視界に映るモノが余りにも違いすぎて気づかなかった。


座りこんでみたら、気づかされる。

この視線では、テーブルより下で、隠れてしまう。

結んでいた髪を柾にめちゃくちゃにされて、私は入口の方へ走った。

あの頃を思い出し、再現するように走る。
でも、確か、入口を塞がれて、私は――テーブルの下だ。


大きなこのホールの中を走り、ここのテーブルに隠れたんだ。

再現通りで言えば、出口のすぐそばのテーブルだ。

そこだと思う所へ入りこめば、屈めばそれほど身体を縮ませなくても入れた。

白いカーテンの様に床まで伸びたテーブルクロスで自分を隠して、滅茶苦茶になった髪を見られたくなくて泣いたあの日。


そうだ。ここだったんだ。

テーブルの下で、上を見上げながらそう思う。


すると、ドアが開かれた。
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