この恋は、風邪みたいなものでして。
了解ですと頷き、大きく頭を下げると、ホールで打ち合わせをしている店長の元へ向かう。
12階にあるホール『リリイ』。ゆるやかなアーチを描く空間に煌くシャンデリア。 ヨーロッパ調の作りで、暖かい色合いのホールは、既にビュッフェ形式のレイアウトでテーブルが並べられている。
その中で、ホテルの方と打ち合わせ中の店長を見つけた。
打ち合わせが終わり此方を振り返った瞬間に、駆け寄る。
「店長」
「華寺さん、お疲れ様」
朝からずっと動きっぱなしなのに疲れを感じさせない完ぺきな笑顔だ。
「今日は本当にすいませんでした」
「いいってば。明日までにはマスクと眼鏡、外しておいてね」
「あの、今日の調律師さんにお詫びと御礼を言いたいのですが、いつもの調律事務所に電話しても大丈夫でしょうか」
迷惑をかえたことを早急に謝罪したい。
素敵な時間を下さったのに、大変失礼な事をしてしまった。
「あー、あの調律師は今日だけ限定っていうか、普段はあの事務所には居ないのよね」
「そ、うなんですか」
おじいちゃん調律師の腰が悪いって言ったから、代打で違うところから来られたのかもしれない。
「大丈夫、また会えるわよ。安心して」
「でも」