この恋は、風邪みたいなものでして。

(誰か入ってくる――?)

カツカツとヒールの音を立てて入ってきたのは、女性だった。

出ないと、おかしい人だと思われる!
急いでテーブルから出ようとしたら、今度は革靴の音までしてきた。

「あの子に本当のことをちゃんと伝えたの!?」

荒げた声は、毎日のように聞いているから間違いない。

店長だ。

「伝えたって、何を?」
「何をって、いい加減にしなさいよ!」

「伝えたも何も、彼女は何も知らないから。説明が大変でさ」

店長の荒げた声とは対照的に、落ち着いてどこ吹く風にように涼しげな声は颯真さんだった。

あの子って、私のことだろうか。
出て行きにくい話題とシーンに、テーブルの下で硬直する。

硬直するしかなかった。

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