この恋は、風邪みたいなものでして。
「私に、身分を内緒にして華寺さんに会わせろとか、シフト教えてとか、自分のことばかり一生懸命で。本業は何をしてるのかしら?」
「それなんだけど、やっとデザイン奪い取ってきたよ。いつまでもスイートルームを俺が占領しているわけにはいかないし」
「私が言っているのは、その上の話。もしかして、恋愛に浮かれて白紙のままならこのホテルなんて潰れてしまいなさい」
ひえー。
店長の、ぴしゃりと冷静に説教するスタイルは、ただただ自分の悪いところが浮き彫りになり反省も出来て勉強になるんだけど。
自分が怒られているようで胸が痛みだした。
研修中の頃、歩き方から化粧の仕方から、細かく指導されてその度に失敗が少なくなっていく自分に気づいて、本当に店長を尊敬した。
「そっちも五月蝿い親と連日話し合っていたんだが、上手くいった。昨日、全て蹴りをつけたんだ」
「私が言っても重い腰を上げなかったのに? どういう風の吹きまわしかしら?」
「その風邪のせい。わかばの風邪を治してやりたくて」
ツンツンと攻撃されて私ならば心が折れそうな中、彼は飄と照れてしまいそうな事を言う。
一体どんな顔で言っているのか、気になる。