この恋は、風邪みたいなものでして。


「まあ、華寺さんの為なら本気なんでしょうね。なんせ17年物の愛情ですものね。ワインなら保存を失敗したら中身は悲惨だけど、貴方はちゃんと保存できていたのよね」

「そうなんだけど、肝心のわかばがちゃんとワインの蓋をしなかったらしく17年の間に全部蒸発しちゃってさ」

「そう」

「今からどんなワインを入れようか楽しみだけど、知ってて欲しいよね。最初に入っていたワインがどんな味だったかを」

二人の会話に、息を吸うのも忘れていた。
大人の会話だ。言葉の端々に含む言葉の意味が私には分らない。

私が忘れたことについて、だとしたら。
私の発表会の日を再現した子の場所に私を呼んだと言う事は、彼があの日の猫をくれた初恋の人だ。


あの日、リボンを付けた猫をくれた人は、優しく笑っていた。

その子猫は私の猫になって、私の大切な生涯の友人になった。

初恋のあの人は、二度と現れないけど、ヤス君だけは――。

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