この恋は、風邪みたいなものでして。
「君の時間をくれないかな」
呆然としていた私の元へ、足音が近づいてくる。
その足音が私の居るテーブルの前で止まった。
「そこに、いるよね。わかば」
「――っ」
「どう言う事?」
店長が荒げていた声から、驚いてうろたえた様子の上擦った声になる。
「ご、めんなさい。隠れるつもりはなかったの」
出ようとしたら、彼が座りこみ、テーブルクロスを上げた。
真っ青な私と正反対で、彼はにこやかに微笑んでいる。
「ぷ。まるでマリアベールを持ちあげた気分だ」
「颯真さん」
「初恋の、やり直しだ。これで思い出さなくても思い出しても、――いい。今日、また此処で俺を記憶に焼きつけて」
持ち上げたテーブルクロスの中へ入りこむと、私の腰を引きよせて、人生二回目のキスを、一瞬だけくれた。
真っ赤になって両手で口を押さえる私の髪を撫でる。
「分った?」