この恋は、風邪みたいなものでして。
「今から俺が一度も間違わずにピアノを弾けたら、初恋のあの日よりも素敵な日にしよう」
「弾けたらどうなるの?」
「本当の婚約者になって」
私の思い出にしてくれようとする颯真さんの気持ちが嬉しくて、私は頷く。
彼が私の為にしてくれる一つ一つのことを、大切にしていこう。
ネクタイではなくて、私は自分の両手で目を隠すと彼が私の両手に触れた。
昨日、エレベーターの中でされたキスのように、その触り方には艶が含まれていて、胸のドキドキが止まらなかった。
彼が弾いた曲は、映画でも聞いたことのある様な有名な洋楽で、私でもその歌詞の意味は知っていた。
こんな有名で難しい曲を、一晩かけて練習してくれた。
昨日、早く帰ったのは、この為だったんだ。
颯真さんが甘く調律してくれたそのピアノで、しっとり色香を漂わせて曲が、音色が、紡ぎだされていく。
こんなに素敵なプレゼントは、あの日のヤス君だけだと思っていた。
彼は私に色んな気持ちや忘れられないプレゼントをくれる。
これは好きにならないわけない。