この恋は、風邪みたいなものでして。

「あれぐらいで気を悪くするような人じゃないし。あ、じゃあその格好で良いから仕事頼まれてくれない?」

「仕事ですか」

「最上階のペントハウスに、ワインを一本届けて欲しいの。今日は飲みたい気分なんですって」

「はあ」

調律師さんへの謝罪とこのワインの話が全く結びつかない。

「ワインを貴方が持っていけば、調理師への謝罪の件も帳消しになるから」

「帳消しに?」

益々分からない。

最上階のスイートルームは、菊池さんが言っていた明日の主役のイケメン作家が居るはず。

もしや調律師さんの身内とか?

「分かりました。すぐに届けます」

「これね」


今から持っていこうとしていたのだろう。
サーブスワゴンの上には、ワインクーラーに氷が溢れるほど入りワインを冷やしている。

「では、伺ってきます」

白のバルーンワンピースにブラウンのブーツ。
とてもじゃないが、最上階に赴く格好としては普段着過ぎるけれど、仕方ない。



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