この恋は、風邪みたいなものでして。
颯真さんの様子に、さっぱり忘れていたノックの相手が、痺れを切らして入ってきた。
「えっ」
このホテルの総支配人ご本人が、店長と二人で入ってくる。
とても物腰が柔らかく、動作に気品があるのに、若々しくて素敵な支配人。
私もオーベルジュの面接で支配人とは一度だけ会ったことがある。
でもどうして、こんなところに。
「あの、おはようございます!」
「おひさしぶりですね。わかばさん」
「はい! お久しぶりです。面接の時には本当にありがとうございました!」
深々と頭を下げ、顔を見上げると、支配人は目尻に皺を寄せ嬉しそうに微笑んで居た。
「……うちの妻が、息子の誕生日に子猫を家に迎え入れたのが17年前。人懐こいロシアンブルーの猫で、名前を私と息子と妻で決めるのを毎日悩んでいた」
「まっ……。何の話を…」
突然始まった話にどきりとすると、後ろにいた店長が苦笑している。