この恋は、風邪みたいなものでして。

そして、ランチの準備用の食器を乗せたワゴンと、テーブルの清掃道具一式を積んだワゴンを乗せて、ホール内へ入る。
すると、グランドピアノがあった場所に、真新しいピアノが置いてあった。

自動演奏装置が付いていて、独りでにピアノを奏でている。

「あのピアノについて貴方に何も言ってないって言ってたわよね。詳しくは、あの馬鹿御曹司にでも聞きなさいね、さ、手も動かして」

「待って下さい。颯真さんと店長の関係って仕事の上司と部下ってだけですか?」

店長は食器を定位置へ置く作業の手を止めずに、テキパキこなしながら答える。

「私が彼の二個上で、小学校から大学まで一緒だっただけよ。学年も違うし、目立ってたけど、そこまで干渉してないわよ。ただこのホテルでウエディングも始めるなら、私の恋人をこのホテルに引き抜きたいって打診してきたの」
「店長の恋人さんを!」
「そう。それなのに、一向に計画を進めないから、私たちの結婚もタイミングが掴めなくて、本当にあの顔を見ると苛々したわあ。先に私たちが結婚しちゃうから」

「わあ。是非に! 結婚式も呼んで下さい!」

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