この恋は、風邪みたいなものでして。
そうだったんだ。
あの時、自分の事で精一杯だったのに、私の為に駆けつけてきてくれたんだ。
あれは、偶然の再会では無くて、ヤス君を選んで初恋の彼を思い出に閉じ込めていた私に会いに来てくれたんだ。
「店長の話を聞いたら、益々颯真さんが好きになってしまいました」
「ええ? どうして、今の話で好きになるの?」
「だって、嬉しいですよ。忘れちゃった私をそこまで思っててくれただなんて」
「華寺さん! ごめーん。おしぼりの温度見てきてもらってもいい?」
菊池さんが大人数用の席から手を振る。
「はーい。すぐに」
「貴方達、お似合いなのね。じゃあ、もう本当に心配しないから」
肩を叩いた店長からは、苦笑いとそれと見守ってくれていた優しい表情が伺えた。
心配をしてくれていたなんて。
「ありがとうございます! これからも、迷惑かけますがご指導お願いします」
「うんうん。百点満点の回答ね。あの腹黒王子と喧嘩したらいつでも弱みを教えてあげるから」
黒い笑みを浮かべつつ、今度は開店の準備に厨房へ歩いて行く。
颯爽とした後姿に、私も追いつきたくて急いで追いかけた。