この恋は、風邪みたいなものでして。
『ロビーの一番奥に居るよ』
仕事が終わると同時に、子猫にミルクを上げている写真とそのメッセージが届いていた。
すぐに飛び出してロビーに向かうと、一番奥の席でパソコンを開いて仕事している彼の背中が見えた。
半日会わなかっただけなのに、私の恋愛フィルターに映るその背中は抱き締めたいぐらい格好良い。
「颯真さん」
声をかけると、すぐに振り返って画面を見ないままパソコンを閉じる。
優しい笑顔で立ち上がると、飛んできた私の頭を撫でてくれた。
「お疲れ様。今日は一日、大変な思いをさせてしまったな」
「いえ。親子喧嘩は大丈夫だったんですか?」
へらりと口元が情けなく緩むので摘まみながら尋ねると、大きく溜息を洩らした。
「いいや。父は強情だからしつこいと思うよ。これは早急に計画を進めなきゃいけなくなるな」
送る、とパソコンを仕舞い、キーケースを取り出した彼を見て、切なくなった。
もう少し一緒に居たい。
「……そんな顔をするのは反則だと思うけど」
「だって、今日は色々あって、でもその何倍も嬉しいというか、その、――気持ちが溢れて堪らないって言うか」