この恋は、風邪みたいなものでして。
「じゃあ、ドライブして帰ろうか」
「はい!」
いじいじしていた私が、その言葉にぱあっと顔を上げると、彼は笑いを堪えて片手でお腹を押さえていた。
でも、いいんだ。
その姿さえも絵になって格好良いんだから。
車に乗りこんで、シートベルトを締めていたら視界が陰る。
見上げたら、身を乗り出してきた颯真さんが触れるだけのキスをしてきた。
一瞬だから目を閉じる暇もなくて、タイミングって本当に難しいなって思う余裕が出来ていた。
「今日はありがとうございました。私、嬉しかったです」
「俺も。あの時の子が、俺との思い出を大切にして、ピアノを追い掛けてレストランに就職してるんだから。そんな子を手放すなんてできないだろ?」
エンジンをかけて車を出すと、ぽっかりと月が浮かんでいるのが見え、星がいつもよりも輝いている。
瞬きする度に、星屑が零れてしまいそうな夜。
「わかば」
ホテルが見えなくなるぐらい離れた場所で、赤信号で止まった。
すると、彼の左手が私の右手に重なる。
それだけで、私の心臓は太鼓のように跳ねあがり颯真さんに伝わってしまう。
「早く慣れないと、――キス以上に進めないから頑張ってね」
「し、精進します」
「もう一回、経験しとこうか」
その言葉に頷くと、今度はしっかり目を閉じた。