この恋は、風邪みたいなものでして。
もう一度ブザーを押すと、小さくコトリと音がした。
「もう来たのか?」
不機嫌そうな低い声。
「あ、あの、頼まれましてワインをお持ちしました」
ドアを開ける様子もないので、ドアの前でそう言うがやはりドアノブは回らない。
「ああ、ありがとう。其処でいい。今は誰とも会う気がしないんだ」
「わ、わかりました。お、おやすみなさいませ」
丁寧に、運んできた事には労いの言葉を下さったが、それ以上は有無を言わさず会話を終わらされてしまった。
結局、調律師さんとの関係は分からなかったが、失礼をしなかっただけ良かったのかな。
エレベーターを待っていたら、この階で降りる人が居た。
すぐにドアが閉まらないように手を添え深くお辞儀をすると、甘い香水の香りがした。
「ありがとう。ルームサービス?」
サングラスをずらして私を上から下までみた女性は、首を傾げる。
「は、はい」
「そ。御苦労さま」
腰までの長い髪からふわりと甘い匂いを撒き散らし、真っ赤な唇で笑うと手を振ってくれた。
綺麗。
足も私とは全然違う。長いし、しかも顔も小さい。