この恋は、風邪みたいなものでして。


「じゃ、じゃあ明日何か作りますね」

と言っても御鍋とかカレーとか簡単なものしか作れないけど。

「そうだ、風君に離乳食の準備を――」
バタバタと逃げだそうとしたら、後ろから彼に抱きしめられた。

「颯真さん?」
「しっ 今は寝ているから起こさないであげよう」

ソファの特等席で気持ちよさそうに寝息を立てる風君を見て、私も頷く。

「忙しいから、風の世話もままならないし、わかばとの時間も減るのはもう我慢の限界だ」

チャリンと音を立てて私の視界に現れたのは、鍵だった。


リボンをつけた鍵が、揺れている。

「これって」

「此処で一緒に住もう、わかば」

直球だった。
飾らないからこそ、強く胸に響くその言葉に心も震えた。

「わ、私で大丈夫かな。風くんより手が掛かるかもしれないよ」

「それでもいいよ。会えないよりはマシだ」

「あはは、酷いっ」

そう言いつつも私の視界では、すでに鍵がゆらゆら滲んで形がぼやけている。

こんなに幸せな事が続いていいののかなって、夢を見ている気分だ。

もしかして私は今、風邪の高熱で幸せな夢を見ているだけなのかもしれない。



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