この恋は、風邪みたいなものでして。
カフェ内は閉店前だったせいか空いてた。
柾は一番奥の窓際のテーブルに出口の方を向いて座っていたのですぐに分かった。
長い脚を組み、不機嫌そうにしかめっ面で私を睨んでいる。
既に怖い。
このままダッシュで帰りたいレベルで怖い。
何も飲む気になれず、そのまま真っ直ぐに柾の席へ向かう。
パリッと高級スーツに身を包み、一流商社マンだけあってオーラから違う。
顔も怒っていなければイケメンだと騒がれるんじゃないかな。
中学まで一緒だったけれど、サッカー部キャプテンでとてもモテていたし。
「遅い」
「ごめんね、店長から仕事頼まれてて」
やっぱり最初の言葉は不満だった。
刺さる様な低い声が、胸をキリキリさせる。
「お前のおばさんがずっと泣いてるって言うから心配してやってたのに、今日から出勤してたのかよ」
「……明日は忙しいから迷惑かけたくなくて」
「貧血起こしてたら一緒だろうが。馬鹿か」
「……気を付けるね。柾も仕事で疲れてるでしょ? もう帰ろうよ」