この恋は、風邪みたいなものでして。
「君は自分の気持ちを彼女に押し付けるだけで、ガキみたいだ」
「なんだと」
「俺は大切な存在を無くした彼女の傷が癒えるまで、待つよ」
肩を優しく抱きしめ引き寄せると、再び私の瞳を覗きこんだ。
「君の傷が癒えるまで、待つよ。俺は」
その言葉が、もしかして柾から助けてくれるための婚約者のふりの台詞だとしても、嬉しかった。
嘘でも、その言葉は私の胸の中へ落ちてきて染み込ませていく。
「泣いてもいいよ。悲しみを流すのは、心がきっとすっきりするだろうしね」
優しい彼の言葉に、胸に顔を押し付けて溢れだす涙を拭く。
そして深呼吸しながら柾を見た。
混乱して呆然としている柾に、私はゆっくり言う。
「柾、ごめんなさい。私、言いすぎた。けど、ごめんなさい。柾の恋人にはなれません」
「本当にそいつが婚約者なのか」
怒りに震える柾に、言葉を躊躇していると彼が強い口調で言う。
「そうだ。俺から彼女にプロポーズしたんだ」