この恋は、風邪みたいなものでして。
嘘なのに、その言葉は真っ直ぐで、私の心をじんわりと温めてくれた。
「柾、本当にごめん。柾に八つ当たりしちゃうぐらい今、心に余裕が無くて、ごめん。だから、本当でも嘘でも、柾には関係ないの」
柾が脅迫するように今言った言葉は、どうしても考えたくない。
ヤス君の事を否定する柾は、どうしても私の中では意地悪してくる小学生の時の柾のままだ。
「お店の迷惑になるし、もう出よう。君も金輪際、わかばに近づくなよ」
最後まで二人の間に緊迫した空気が流れていたけれど、私はもう柾を見ることはなかった。
カフェから出ても、彼の胸の中に顔を埋められされ、かなり歩きにくかった。
それなのに、私も離れたくなくてしがみ付いていた。
まだ名前も知らない。
今朝会ったばかりの人。
それなのに、こんな風に私を助けてくれたのはどうしてなんだろう。
「もう此処までくれば離しても大丈夫かな」
肩から手を離して、彼が指差したのは駅だった。
「今日は、今日は本当にありがとうございました。あ、違う、今朝は本当にご迷惑を――」
「ぷ。動きがちまちましてて可愛いけど、ちょっと落ちついて」