この恋は、風邪みたいなものでして。

嘘なのに、その言葉は真っ直ぐで、私の心をじんわりと温めてくれた。


「柾、本当にごめん。柾に八つ当たりしちゃうぐらい今、心に余裕が無くて、ごめん。だから、本当でも嘘でも、柾には関係ないの」

柾が脅迫するように今言った言葉は、どうしても考えたくない。

ヤス君の事を否定する柾は、どうしても私の中では意地悪してくる小学生の時の柾のままだ。



「お店の迷惑になるし、もう出よう。君も金輪際、わかばに近づくなよ」

最後まで二人の間に緊迫した空気が流れていたけれど、私はもう柾を見ることはなかった。


カフェから出ても、彼の胸の中に顔を埋められされ、かなり歩きにくかった。


それなのに、私も離れたくなくてしがみ付いていた。

まだ名前も知らない。
今朝会ったばかりの人。
それなのに、こんな風に私を助けてくれたのはどうしてなんだろう。


「もう此処までくれば離しても大丈夫かな」

肩から手を離して、彼が指差したのは駅だった。

「今日は、今日は本当にありがとうございました。あ、違う、今朝は本当にご迷惑を――」

「ぷ。動きがちまちましてて可愛いけど、ちょっと落ちついて」


< 28 / 227 >

この作品をシェア

pagetop