この恋は、風邪みたいなものでして。

「はい。すいません!」

口元に手を当てながら、まだ笑いの波が治まらない彼は私から目を逸らした。

長身で、ブラウンの深い瞳、大きな手、そしてちょっと乱れた髪。


全てが今朝、私に優しくしてくれた調律師さんと一致していく。

「また彼が言い寄ってきたら困るだろうから、彼が諦めるまで婚約者のフリしてようかと思うんだけど」

「ええええっと、でもご迷惑じゃ」

「俺も丁度元カノが乗り込んできて迷惑してたんだ。君が婚約者のフリしてくれたら助かる」

元カノ……?

こんな格好良い人だから、それは恋人ぐらいいたに決まってるよね。
なんだが胸が痛むけど、でも役に立てるなら喜んで。

それに、今日だけじゃ、疑い深い柾は信用しないだろうし。

「まだ君は大切な人を失って一週間だと言うのに、さっきの彼の態度はちょっと許せないから全力で力になるよ」

「……ありがとうございます」

どうしよう。
マスクとサングラスを取った彼は、性格までまるで王子様だ。

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