この恋は、風邪みたいなものでして。

「おはようございます、店長」

おずおずと顔を出すと、店長はもう台拭きを持って中央に置かれたグランドピアノを拭いている所だった。

「おはよう、華寺さん。風邪はもういいの?」
「……はい、大分」

心配してくれる店長に嘘を吐いてしまいズキズキ罪悪感に苛まれる。
うう。本当にごめんなさい。

「まだ目も赤いし、本調子じゃないわね。今日の仕事は無理しないでね」
「すいません」
「いいのよ。それに一番忙しくなる明日に間に会って良かったわ。そうだ、明日の流れを伝えとくわね」
「すぐに着替えて来ますっ」

晴れた目は、パチパチ瞬きしても痛いけれど、今は我慢するしかない。
泣き過ぎて声も枯れていたけれど、それは大分良くなってきたし。

 明日は、とある出版社の有名な賞の授賞式が『オーベルジュ』で行われる。
その会場での流れとか、準備とかで今日もきっと忙しいに違いない。
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