この恋は、風邪みたいなものでして。
じいんと胸を熱くしていると、彼が小さく零すように言葉を吐いた。
「今は君の傷に免じて待っていてあげるだけだけど」
え?
今の言葉の意味は?
そう思って見上げても、彼は王子様スマイルで私と同じ方向に首を傾げるだけだ。
「そう言えば、調律師さん、お名前なんて言うんですか」
「颯真。御手洗 颯真(みたらい そうま)。可愛い婚約者が出来たばかりの27歳」
27歳。
5歳年上だからか、頼りがいのある落ちついた方だなって思ってたんだ。
みたらい……。
どこかで聞いたことある名字に、思い出そうとしても、今日はもう色々ありすぎて何も思い出せない。
っと、自己紹介をして貰ったんだから私もしなくては。
「華寺わかばです。同じく素敵な調律師さんに婚約者として助けて頂いたばかりの22歳です!」
へらりと笑うと、颯真さんも爽やかに笑ってくれた。
「朝の君とは大違い。こっちのふわふわした君の方が良いね」
「あはは、朝は風邪を引いたフリをしてすいません」
「風邪、ね」
「そう言えば、朝、颯真さんも風邪を引いていましたよね? 今は大丈夫なんですか?」
今朝、余裕がなさそうに見えたけど、今はもう顔色も良い。
「ワケあって風邪のふりをしていたんだよ。わかばと一緒」