この恋は、風邪みたいなものでして。

ワケあって。

お茶目にそう言う彼に、それ以上聞きにくかったので私は頭を大きく下げた。

「今日は本当にありがとうございました。調律師さん、じゃなかった、颯真さんには朝からずっと助けられてばかりだし、それに」

待つよ、と私の気持ちに寄りそってくれた。

その優しい気持ちに触れただけで、私の心も優しさに感染していく。

「お陰で落としてしまっていた大切なヤス君への気持ち、また掬いあげられました。私、皆に馬鹿にされるかもって風邪のふりをしてたけど、堂々と悲しんであげられてよかった。――全部、全部、颯真さんのお陰です」


早口で、自分の気持ちを伝える。
真っ赤で俯いて、手なんて落ち着かないけれど。


「ああ。俺も。君がどんなに彼を一途に愛していたのか、君の心に触れた気分だよ」

「明日から泣かないようにします。勿論、忘れないんですけどね、颯真さんの優しさを頂いたし、頑張ります」

「そうそう。今はそれでいいよ。『優しい調律師』のままでいい」

「?」

「おやすみ。また明日。あ、授賞式の時もよろしく」

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