この恋は、風邪みたいなものでして。


「へえ、男の方が書かれているんですね」
「これ、サイン貰う様に二冊買ったんだけど、貸してあげるよ」

『処方箋』を差し出され、ペラペラ捲る。
うーん。
少女漫画は視覚でも楽しめるから好きだけど、私、字が並んでいると眠くなっちゃうタイプだし、読めるかな。


それに。

昨日の、調律師さん以上に素敵なヒーローなんて考えられないし、あれ以上に幸せな話も考えられない。
一晩経っても、胸の高鳴りは甘い痺れとなって思い出すたびに私を襲っている。

「これを昨日買った時に柾くんと会ったんだよ。昨日は、会えた?」
「え、あ、え、あー、はい、会えました」
「柾君、本屋で少女漫画なんて買ってたから、きっと華寺さんが落ち込んでるから元気になるような漫画探してくれてたんじゃないかな」

柾が……?
昨日、怖くて早く帰ろうとして、柾の話なんて聞こうともしなかった。
それに小さな頃から、少女マンガのヒーローに恋してた私を馬鹿にしてたのに。
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