この恋は、風邪みたいなものでして。


「今日の華寺さん、幸せそうだし良いことあったんだろうなって思ったんだけど、もしかして柾くんではないんだ」

柾の名前に薄く反応した私に、菊池さんは鋭い指摘をしてくる。
私にはやはり、柾は意地悪で怖い幼馴染だ。
それに、今は昨日の調律師さんの事で頭がいっぱいだし。

「そう言えば、今日の授賞式でピアニストの『茜』って人がうちのグランドピアノで弾くらしいよ。さっきホールでリハしてたけど、顔は小さいは細いは綺麗だわって、もう本当に美人で同じ人間に思えなかった」

ミーハーな菊池さんにとって今日の授賞式は楽しみでしかたないのか、話がコロコロ変わるけれど楽しそうだ。

「この『処方箋』って本の、主人公が惚れるピアニストがこの人だって噂なのよねえ。作者とピアニストが昔付き合っていたとかなんとか。ああ、こんな綺麗な人の恋人だったなんて、最上階に泊まってる小説家さん、ますますお近づきになりたーい」

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