この恋は、風邪みたいなものでして。

「あはは」

昨日、店長から頼まれて最上階へ足を踏み入れたことは黙っておこう。
会えてもないから菊池さんへ話せる内容もないし。

それよりも、昨日舞いあがりすぎた私は、颯真さんの連絡先を聞いていなかい。
ちゃんとまたお会いできるよね?
また明日って言っていたし。

颯真さんを思い出すと、口の中いっぱいに甘いモノを頬張っている様な幸せな気持ちになれる。

ヤス君への気持ちを受け止めてくれたから、尚更そう思う。

気持ちを落ち着かせるために、パラパラと本を捲る。

売れない小説家と人を引きつけるピアニストの恋物語を。


「よーし。サイン貰えるように頑張るぞ」

気合いを入れてメイクを直す菊池さんに釣られて私も窓ガラスに顔を映す。

目の腫れは化粧で隠れた。
よし。大丈夫。

もし今日会えた時様に、私も少しだけ化粧を整える。

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