この恋は、風邪みたいなものでして。

18時になると、ホテルのロータリーに次々とタクシーが止まりだした。
中から高級スーツに身を包んだ方々、綺麗に着飾った女性たちが次々に降りてくる。
「ウエルカムドリンクでございます」

入り口で飲み物を渡すと、上品に会釈して下さる方ばかりで恐縮してしまう。
次々に入って来るので間に合わなくならないように冷や冷やだ。

「えー、ビールないの? じゃあワインは」

「すいません。そちらも御用していますが、乾杯の挨拶の後にと言われております」
菊池さんが嫌な顔一つせずに、タヌキのようなお腹のおじさんへ対応している。
その人はまだ不満そうだったが、菊池さんの鉄壁の笑顔にすごすご退散していく。

「開始早々飲もうとされるなんて要注意ね。飲める理由があればなんでも良いんでしょうね」
「そうですね。まずは受賞のお祝いですもんね」
「わ、来たよ、ピアニストの茜さん。綺麗っ」

耳打ちされて、開いたエレベーターを見ると、真っ赤なマーメイドドレスに首元の赤いスカーフを優雅に靡かせて、歩いてくる。

真っ赤な唇に、大きなサングラス。

「あっ」

昨日、最上階に降り立った美人さんだ。

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