この恋は、風邪みたいなものでして。


着替えてホールへ向かうと、出勤してきた先輩ウエイトレスの菊池さんが店長に詰め寄っていた。
「すっごい美形でした! やばいよ、本気でやばい!」

「菊池さん、その言葉使い、仕事中に絶対に出さないでね」

「分かってますって。でも凄い見惚れちゃうようなイケメンが一番上のスイートルームへ行くの見ました。あの人、明日の授賞式の大賞の人ですよね。あんな美形が書く恋愛小説とかもう絶対買いだわ」

「はいはい。貴方が落ちつかなければ明日は連れていけないからね。華寺さん、こっちこっち、厨房でメニュー見せてもらうから来て」
「はーいっ」

先輩に挨拶しつつ、店長の後を着いて行く。
菊池さんも店長も卒なく仕事ができ、綺麗でよくお客様に声をかけられている。
仕事じゃない時の素の二人も、私は飾らないのに綺麗で好きだし尊敬する。

「メニューは以上。で、貴方は主に配膳だから。常にグラスが空になっていないか気を配ってね」

「はい」

「それと、今日今から調律師がピアノを見に来るから、お茶お願いね」

「今から、ですか」

「そ。朝は演奏しないでしょ? お客様がいらっしゃるけど、あのグランドピアノ、とても古いから音がすぐ狂っちゃうの。明日はあれで演奏するらしいし」
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