この恋は、風邪みたいなものでして。

茜さんは、色んな人に囲まれてまんざらでもなさそうに笑っている。
愛想笑いなんてせず、ちやほやが嬉しいと言った様子。
目立つのが好きなのかもしれない。
今度こそ私のことは眼中にも入れないで欲しい。

「君、もうビールは頼んでいいのかね」
「わ、…しょ、少々お待ち下さい」

さきほどのタヌキ腹のおじさんが私の肩を強く叩く。
手には既に乾杯用のシャンパンを飲み干している。

颯真さんが挨拶してからって説明があったのに。

「じゃあ、シャンパンお代わり頼むよ。あと、時間押してないか? 段取りが悪すぎる」
「申し訳ありません。急ぎますので」
彼にシャンパンを渡したら、この方に持って来なくては。
彼を探すと、ホール内で一番人が集まっている場所を見つけた。

そこの中心で穏やかに笑っている颯真さんがいた。

「失礼致します。申し訳ありません、前を失礼します」

通り抜ける度に人にぶつかりそうになっていたら、スッと手が伸びてきた。

「ありがとう、わかば」

「そっ 御手洗さん」

下の名前を呼びそうになってすぐに名字を呼び、誤魔化す。
わざわざ私を見つけて通してくれたんだ。
グラスを持つと微笑む。
その姿も絵になっていて素敵だ。
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