この恋は、風邪みたいなものでして。
「君、遅いじゃないか!」
不満げに先ほどの方が私のお盆に空のグラスを置くとグラスを二個取ろうとする。
「すいません、お一人一つでして」
「うるさい、喉が渇いているんだ」
また強く肩を押されて、空のグラスが宙を舞った。
「きゃあ」
「危ないっ」
ガシャンとグラスが割れる音――はしなかった。
彼がキャッチしてくれている。
代わりに茜さんが避けた拍子に尻餅をつく形で倒れている。
「す、いません! お怪我は!」
慌ててお盆をテーブルに置くと駆け寄った。
「触らないでっ」
茜さんが私を睨むと、颯真さんを見る。
「酷いわ。彼女、わざと私にグラスをぶつけようとしたのよ」
「ちがっ違います。よろけてしまって」
「颯真ぁ」
甘く名前を呼ぶと、彼が長い手を差し出し、彼女を立たせる。
「怪我がないなら良いだろう。わかばも、怪我は?」
「大丈夫です。すいません」
「いいよ。君に怪我がないなら」
微笑む颯真さんと対照的に、隣の茜さんは面白くなさそうだ。
「ねえ、私、シャンパン持って来てって言ったよね?」
「すいません、直ぐに」
「どうされましたか?」
「店長……」
とうとう騒ぎを嗅ぎつけた店長までも来てしまった。
迷惑をかけてしまったんだ、私。