この恋は、風邪みたいなものでして。
「大丈夫ですよ、何もないです」
直ぐに颯真さんが笑って誤魔化してくれたけど、茜さんは不服そうだった。
「あの子、追い出して。追い出さなきゃ、私、今日弾かないから」
ふくれっ面の茜さんに、店長が私見た後、颯真さんを睨みつけた。
「御手洗様、このような騒ぎは――」
「紹介が遅れたけど、あの子は俺の婚約者。恋人でもない君には関係ないって思ってたんだけど、紹介しとく」
「えっ」
「はあ?」
私と茜さんが同時に声を上げた。
店長は頭を抑えて首を振る。
「――ね、わかば。君は俺の婚約者、そうだよね?」
「えっと」
店長と茜さんの視線が痛い。
それなのに、颯真さんは涼しげな顔で私を手招きすると、優しく手を握り、耳打ちをした。
「頼む。彼女の前で婚約者だと言って欲しい」
(えっ)
「困ってるんだ」
苦笑いを浮かべた颯真さんを見て、私の顔が引き締まる。
そうなんだ。
昨日の私の逆で、颯真さんも困ってたんだ。
それだったら、力になりたい。
「そ、そうです。婚約していますっ」