この恋は、風邪みたいなものでして。

「詳しい事は、結婚式でムービーでも流すから、スピーチ宜しく」

「……結構です。華寺は仕事中ですので連れて帰りますね」

呆れ顔の店長に、裏へ戻るように目で合図され、深々とお辞儀をして戻った。

まだ店長と颯真さんが何か話していたけれど、内容までは聴こえて来なかった。

二人は、知り合いなのかな。

もしかしたら店長は最初から颯真さんが調律師ではなく、小説家だと知っていたのかもしれない。

そう思えば全ての行動に合点がいく。
でも、其処で何で私に全て仕事を任せたのかは不思議だ。

昨日、調律の時に菊池さんが居たら――きっと彼は菊池さんに頼んだかもしれない。
そっちの方が良かったかも。
菊池さんなら綺麗だし。

「どうしたの? すっごく顔色悪いけど」

丁度裏へ戻ってきた菊池さんに心配されてしまった。

「お酒の席では、あんなおじさん日常茶飯事だから、気にしないでね。それより、ほら、あの小説家、すっごく格好良かったよね」

タイムリーな話題で、私の顔色が更に悪くなったのは言うまでもない。
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