この恋は、風邪みたいなものでして。
並べられたビュッフェが少なくなれば運び、飲み物が空の方は居ないか歩いて回り、酔った方や服にワインを零した方などの介抱もして――慌ただしく時間は過ぎていった。
気づけば、彼のスピーチが終わっていた。
お盆片手に、ステージ上でお辞儀をする彼を目で追う。
拍手喝采の中、にこやかにステージから降りてくる彼が私を見てくれた。
彼は人目も気にせず私に手を振ると、手招きする。
店長を探しても何処にも居なくて、私は飲み物を渡すふりをして近づいて行った。
集まる人達に、小さくお詫びをしつつ真っ直ぐ私の方へ近づいてくると、お盆の上のお茶を手に取る。
「さっきはごめん」
「い、いえ。お役に立てたなら」
ブンブンと頭を振ると、ちょっとだけホッとしてくれた。
気にしてくれていたんだ。
「何度も断っていたんだが、最近は彼女気どりで、いい加減断る方法も底をついていたから本当に助かった」
「そうだったんですね」
「あれでも、仕事はできるからその部分では付き合いはできるんだけど」
苦笑する彼は、ステージの横の白いグランドピアノを見た。