この恋は、風邪みたいなものでして。

店長も菊池さんも明日の準備で忙しいのだから、当日しか動かない私は確かに適任だ。
八時から朝のビュッフェが始まるし今しか時間はないのだ。
既に当番の先輩たちはもうホールで準備を始めていた。

「分かりました! お茶を煎れて来ます!」

やる気満々の私に、何故か店長は胸を撫で下ろしている。

「良かったわ。それと――、いや、駄目だわ。これは言っては」
「?」

店長は独り言をぶつぶつ言うと、意味深な笑顔を向けた後、そそくさと逃げて行く。
それと――?

何か仕事でもあったのかな。


「調律師っていつものおじいちゃんかしらね」
「えっ」
「近くの調律事務所の可愛いおじいちゃんかなあって」

もう制服に着替えた菊池さんが溜息を吐く。

「話が長いから、仕事が遅いのよね。腕は確かなんだけど。まあまだ病み上がりだしゆっくり出来ていいわよね。無理しないでね」
ぽんっと肩を叩かれ、また罪悪感に苛まれた。

私が一週間も泣いて仕事も出来なかったのはペットロスからだと、言えない。

言おうとしたら――。


「華寺さん、来たわよ」
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