この恋は、風邪みたいなものでして。
「そ、そんな風に、恋人じゃない人を簡単に部屋に入れたら駄目だと思います!」
「そんなに警戒されると逆に手を出さないといけないような気がしてきた」
「なっ」
「嘘だよ。部屋の中央の柱の中に水槽があって綺麗だから見せたかっただけ。嫌ならそうだな、取り合えず部屋に来て。場所決めとくから」
あっさりとそう言うと、私のお盆にグラスを置いた。
結局、彼のペースに乗せられて仕事後に会えることにはなったらしい。
どうしよう。
嬉しいかも。
一人で心の中で踊っていたら、彼は店長が用意した花束に迷いなく近づき受け取ると、茜さんに手渡した。
茜さんは嬉しそうに受け取ると華の匂いを気持ちよさそうに吸い込む。
そして、彼女からも真っ赤な赤いバラの花束を受け取って、二人の並んだ姿を記者が何枚も写真を撮っていた。
そうだ。
彼はきっと私に婚約者のふりとして部屋に来てほしいだけで、勝手に意識した私に呆れていたのかもしれない。
踊っていた心も、きゅうっと胸を締めつける痛みに静かになった。